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福岡高等裁判所 昭和51年(行コ)21号 判決

控訴人(被告) 福岡市長

被控訴人(原告) 松岡君代 外一二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人らの訴を却下又は棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加するほかは原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

1  控訴人の補充的主張

控訴人は従前から主張のように、被控訴人らの本件住宅改修資金貸付申込書には、解同市協支部長の認印がなかつたので、右資金の貸付申込書の受理を拒んだのであるが、控訴人の右行為は実質的には、被控訴人らの右申込を排斥し、貸付けに応じられない旨の実体的拒否の意思表示したものであつて、控訴人には被控訴人らの右申込に対する不作為はないので、被控訴人らの不作為の違法確認を求める訴は訴の利益を欠く不適法なものである。

2  被控訴人らの主張

控訴人の右補充的主張に対する反論

(一)  被控訴人らの本件申込に対し処分行為があつたとするためには、少くとも被控訴人らの本件申込書を受理し、その上で、法令に基づき貸付けの許否を判断しなければならない。そして規則第五条二項によると、貸付ける場合には「住宅改修資金貸付決定通知書」を交付し、貸付けないことを決定した場合には、その旨の通知をするように規定されている。しかるに控訴人は本件貸付申込書の受理自体を拒否し、貸付けるかどうかについての許否をしないのであるから、被控訴人らの本件貸付け申込に対し処分があつたということはできず、不作為というほかはない。

(二)  なお、控訴人の右補充的主張は、時機におくれた攻撃防禦方法であるから却下を求める。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本位的請求すなわち、不作為の違法確認を求める請求は、いずれも正当としてこれを認容するべきものと判断するものであるが、その理由は、次に付加、訂正するほかは、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決一三枚目表一〇行目の「条例一条」の次に「、従前の福岡市住宅改修資金貸付条例(昭和四一年福岡市条例第五〇号)は本件条例により廃止された」を加える。

2  同一四枚目裏八行目の「七月一九日までに」を「七月一九日ないしは八月六日頃までに同年七月一九日付で」を加え、同九行目から一〇行目にかけて「提出する」とあるのを「提出した」と訂正する。

3  同一四枚目裏一一行目以下同一五枚目表七行目の「かつ、」までを次のとおり改める、「すなわち、原告らは、各自、本件規則において定める様式第一号の二の住宅新築資金等借入申込書(住宅改修資金)の所定の用紙に、所定の事項を記載して、本件住宅改修資金の借入申込書を作成し、昭和五〇年七月一九日頃、訴外浅田武志らを介して、所轄の福岡市役所建築局建築部住宅改良課に持参し、担当職員に手交したが、被告は、その後同年八月二日、同住宅改良課長の名をもつて、原告らの提出した右借入申込書を、住宅改修資金については、解同市協地区支部長の認印がないので、解同市協地区支部長の認印を得たうえで、同月一一日までに再提出するようお願いする旨の文書を添えて、原告らに対し各返戻して来た。しかし、原告らは、本件住宅改修資金申込みについては、右認印は必要はないものとして、同月六日、右支部長の認印を得ず、前記浅田を介し、再度前記住宅改良課に持参し、解同市協地区支部長の認印を要求することの不当性に抗議するとともに、さきに提出した借入申込書を、再度そのまま係職員の机の上に提出して帰つたこと、一方被告は、右解同市協地区支部長の認印のないものは、正式の住宅改良資金借入申込があつたとすることはできないとし、更に同年一二月一日被告の職務代理者福岡市助役武田隆輔の名でもつて、原告らに対し、原告らが提出した右借入申込書には、右支部長の認印がないので、右申込書を住宅改良課で引取つた上、右支部長の認印を得て提出することを促す手紙を原告らに各送付したこと、しかし、原告らにおいて右申込書の引取りに応じないので、被告は原告らの右借入申込みについて何らの許容の判断をせず、そのまま放置し、現在に至つているものであることが認められるものである。そして、」

4  同一五枚目裏六行目の「解すべきである。」の次に「なお、被告は前記のように、被告の職務代理者助役の名で、再度、原告らが提出した借入申込書を住宅改良課で引取つた上、解同市協地区支部長の認印を得て再提出するよう促したことも、右同様原告らに対し任意補正を促したものに過ぎないものと認められるから、原告らにおいて右申込書の引取り及びその補正に応じない以上、被告は原告らの右借入申込(申請)に対し、何らかの手続的拒否処分ないしは実体的許否処分をすべきであつて、単に、そのまま放置することは不作為と評価せざるを得ない。」を加える。

5  同一七行目裏七行目の「けれども、」の次に「前記甲第二号証の本件規則には、本件住宅改修資金借入申込みについての借入申込書の記載事項を規定しているところ、同規則第四条によれば、右改修資金の貸付けを受けようとする者は、同規則の定める様式第一号の二に定める申込書により、市長に申込みをしなければならないことになつている。しかして、右様式第一号の二によれば、被告が補正を要求しているような解同市協地区支部長の認印を受けることは、右申込書の必要的記載要件事項にはなつていないのであるから、同様式の定める記載事項の記載を満している限り、右支部長の認印がないとしても、それのみをもつて、原告らの本件借入申込(申請)をもつて、本件条例及び規定の定めに違反する不適法な申請ということはできないのであつて、前記解同市協地区支部長の認印に関する取扱いは、」を加え、同一八枚目表四行目の「認められる。」の次に「以上、要するに、原告らの本件借入申込(申請)は右支部長の認印がなくても本件条例及び規則に基づく適法な申請といわなければならない。」

6  なお、控訴人は、前記のように控訴人が被控訴人らの本件借入申込につき、解同市協地区支部長の認印がないとして受理を拒んだことは、実質的には被控訴人らの本件申込(申請)につき、その貸付けに応じられない旨の実体的拒否の表示をなしたものといえるから、被控訴人らの本件申込(申請)に対する不作為はない旨主張する。しかし、前述のように控訴人が昭和五〇年八月二日、被控訴人らに本件申込書を返戻したのは、控訴人の要望にそうよう任意申込書の補正を促したものであり、また、控訴人が同年一二月一日に提出した本件申込書の引取り補正を要望したことも、右同様任意の補正を促したに過ぎないものと認むべきものであることはさきに述べたとおりであるところ、被告らにおいて、右控訴人の要望にそう任意に補正に応ぜず、従前の解同市協地区支部長の認印のない本件申込書をそのまま再度提出したのであり、そして、それが前述のように適法な申込(申請)と認められる以上、控訴人は被控訴人らの右申込みに対し、その許可の実体的判断をしなければならないものというべきであるところ、本件規則によると、本件条例及び規則に基づく資金借入れの申込があつたときは、市長はその貸付けるか否かを決定しなければならず、貸付けるときは住宅改修資金貸付決定通知書を、貸付けないことを決定したときはその旨の通知を、各借入申込者にしなければならない旨規定されているのに、控訴人において本件借入申込者である被控訴人らに対し、右の何れの通知をもしないのであるから、控訴人において、本件申込(申請)につき、実体的拒否の処分をなしたものとすることはできないし、また、被控訴人らが提出した本件申込(申請)に対し、単に申込書の引取り補正を促しただけで、その後においても、被控訴人らが本件申込書の引取りも補正もしないのに、控訴人が本件申込(申請)を不適法として却下処分にもせず、また前記のように実体的貸付許否の決定もせず、そのまま手許において放置していることは、行政庁の不作為と評価せざるを得ない。

よつて、本件被控訴人らの本件申込(申請)に対し、控訴人に不作為はないとの控訴人の主張は、それが時機に遅れた攻撃防禦方法であるか否かを判断するまでもなく理由がない。

二、そうすると、原判決は正当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 亀川清 原政俊 松尾俊一)

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